脳神経外科よりメッセージ
脳・脊髄・末梢神経系およびその付属器官(血管・骨・筋肉など)を含めた神経系の疾患で主に外科的治療の対象となりうる疾患について診断、治療を行う医療の一分野です。
外来では頭痛・手足のしびれや違和感・しゃべりにくさ・頭部外傷・物忘れなど様々な症状を訴えて来院する患者さんに対して最新鋭のMRI/MRA/CTなどの最新に機器を使って、中枢神経系の異常がないかの検査をして、必要があれば入院しての検査・治療や通院での症状を緩和するための薬物療法・生活指導を行っています。脳卒中予防のための生活習慣病治療にも力を入れています。
また、認知症診断の目的で簡易的な認知症テストや脳萎縮度を測定するCT検査も可能です。近年は老年性てんかんも増加しており、その治療も脳神経外科で行っています。
「よく解らないけど脳が心配!」と思ったら、気軽に受診していただければ幸いです。予約なしで検査を行っています。検査や説明に時間がかかるために、診察までの待ち時間が長くなることがあります。その点だけはご容赦下さい。
目次・・・
- 脳梗塞とは
- 脳梗塞の診断・治療
- 心原性脳塞栓症
- 慢性硬膜下血腫
- 脳ドックとは?
- VSRAD(早期アルツハイマー型認知症診断支援システム)
- 認知症?物忘れ?
- 肩こりを治しましょう!
- 熱中症対策を充分に!
1.脳梗塞とは
脳梗塞とは脳を栄養する動脈の閉塞または狭窄のため脳虚血を来たし、脳組織が酸素、または栄養の不足のため壊死または壊死に近い状態になる事をいいます。稀ですが、静脈の流れが悪くなり起こるものもあります。
脳に血液が行き渡らなくなる原因の多くは動脈硬化によるものですが、近年心臓から血栓が飛んで起こる心原性脳塞栓が増加しています。長嶋監督が突然言語障害、右片麻痺を起こしたのも心原性脳塞栓です。
脳梗塞は後遺障害が多かれ少なかれ残ることが多く、福祉の面でも多くの課題を伴う疾病です。
1.危険因子
- 生活習慣病(高血圧・糖尿病・高コレステロール血症)
特に高血圧の合併が圧倒的に多いのが特徴的です。高血圧の存在が動脈硬化を進行させる基盤を作るからです。 - 不整脈(心房細動)、心臓弁膜症
心臓の中に血栓が出来やすくなります。
2.脳梗塞の初期症状
- 呂律がまわらない、顔の片側の動きが悪い
脳が原因の顔面麻痺は額に麻痺がないのが特徴です。額の麻痺も伴う場合は末梢性顔面神経麻痺の場合が殆どです。 - 半身の麻痺・知覚障害
顔面も含めた右半身または左半身の症状です。両側性の場合は脳以外の原因のことがほとんどです。 - 言語障害
言葉を出すことが出来ない運動性失語症と理解することが出来ない感覚性失語症があります。感覚性失語症の場合は突然訳の解らないことを言い出すので、ご家族が認知症と勘違いすることがあります。 - めまい
回転性のめまいやバランスが取れずにうまく歩けない等の症状です。 - 痙攣発作
そのほかにも多彩な症状が出てきますので、不安があれば早急に検査を受けた方がよろしいかと思います。特殊な場合を除き、脳梗塞で頭痛は起きないというのは覚えておいてください。
2.脳梗塞の診断・治療
MRI検査・・・もっとも確実かつ迅速に診断することが出来ます。
当院では緊急時には3種類の撮影法を行い、脳梗塞の部位と範囲・閉塞血管の有無を約20分で診断可能です。点滴治療・内服治療・リハビリを平行して行っていきます。
【症例】
63歳男性、既往癧に発作性心房細動、脳梗塞あり。
朝、着替え中に突然左半身麻痺をきたし、発症40分後に救急搬入。
意識清明、眼球右方偏位、高度の左半身麻痺を認めた。
■MRI Diffusion
右中大脳動脈領域に新しい脳虚血巣が見られます。
左の図で白く見えているところがその部位で、小さな脳虚血でも発症1時間以内に86%の検出率があるといわれています。この画像で移った部位は治療の如何に関わらず、脳梗塞にいたる可能性が高い部分です。
■MRI FLAIR
Diffusionで見られた部分に脳梗塞巣は見られません。
左の図では分かりにくいですが、右中大脳動脈が白く映し出されていて、血流低下が示唆されます。
脳梗塞に陥った部分は白く写りますが、脳虚血になってから数時間かかります。
■MRA
右中大脳動脈の一部が描出されていません。左側の健側と較べるとよく解ると思います。
■投与
心原性脳塞栓症と診断し、血栓溶解剤(t-PA)の投与を行いました。
1時間後に麻痺は改善し、MRAで完全再開通を確認しました。
この症例は著効例ですが、早期からの薬物治療により症状が軽快し、リハビリの効果が期待できるようになります。
3.心原性脳塞栓症
心原性脳塞栓症とは、心臓の中でできた血栓がはがれて、脳の太い動脈を詰まらせてしまうために起こる梗塞のことをいいます。突然、脳の動脈が詰まってしまうため、脳梗塞の中では最も重症になりやすく、症状も急激にあらわれやすくなります。
心臓に血栓ができる原因で最も多いのは心房細動という不整脈です。症状は、手足の運動麻痺・感覚障害、意識障害などが突然に起こります。
生活習慣病予防が浸透したために動脈溝硬化性の脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)は減少していますが、高齢化に伴い不整脈の持病率も高くなり、心原性脳塞栓症は脳梗塞全体の40%近くを占めるようになっています。
予防薬としては抗凝固剤を服用することです。近年、安全性の高い抗凝固薬が発売されて効果も確認されていますが、高価なのが欠点です。
発症後4時間以内でかつMRIで脳梗塞が完成していないことが確認出来れば、血栓溶解剤(t-PA)の静脈内投与の適応です。これで再開通しない場合は血管内治療で血栓溶解術を行うこともあります。
脳梗塞が完成してしまっている場合には脳の腫れを抑える薬や脳保護薬の点滴治療を2週間行います。(症状・年齢により投与期間は変化します)
1ヶ月後には完全再開通しています。右脳に脳梗塞が残ったために左半身麻痺は残りましたが、現在は農作業も可能な状態となっています。
とにかく、時間が勝負です。できる限り早くに病院に来てください!
4.慢性硬膜下血腫
1.慢性硬膜下血腫とは
軽微な頭部外傷後慢性期(通常1~2ヶ月後)に頭部の頭蓋骨の下にある脳を覆っている硬膜と脳との間に血(血腫)が貯まり、血腫により脳が圧迫されて様々な症状を呈する病気(外傷)です。
成因はまだ充分には解明されていませんが、頭を打った時に脳の表面の硬膜下腔に小出血がおこり、そこに髄液が混入して被膜が形成され、血腫被膜に新しく血管が形成されて、そこから出血を繰り返すと考えられています。
2.症状
一般的には軽微な頭部外傷(時には外傷の事実がはっきりしない場合も少なくありません)の後の慢性期(1ヶ月以降)に頭痛、片麻痺(歩行障害)、精神症状(認知症)などで発症します。 若年者(発生頻度は低い)では主に頭痛・嘔吐,片麻痺,言語障害などがみられます。
高齢者では痴呆などの精神症状,失禁,片麻痺(歩行障害),意識障害などが主な症状です。呆けだけで発症する慢性硬膜下血腫もあり、比較的急に呆け症状が見られた場合には慢性硬膜下血腫を疑うことも重要です(治療可能な痴呆症)。
3.診断
CT/MRIにより容易に診断がつきます。
4.治療
難治性再発性慢性硬膜下血腫などの特殊例では全身麻酔下で開頭手術を行うこともありますが、基本的には局所麻酔下に血腫の直上の皮膚を4cmほど切開し、直下に穿頭(ドリルで頭蓋骨に直径1cmほどの穴を開けます)してそこから血腫を取り除き、内腔を生理食塩水で洗浄します。手術は1時間ほどで終了します。
5.手術後の経過
多くは手術翌日には症状が改善し、1週間程度で退院可能です。
但し、硬膜と脳の隙間がなくなる(この時点で治癒となります)までには数ヶ月を要し、外来で定期的にCT検査を受けていただきます。再発により再手術が必要な症例は10%程度です。
6.最後に
慢性硬膜下血腫はタイミングを逸することなく治療が行われれば完治する予後のよい疾患です。頭を打撲して1~2ヶ月ほどしてから調子が悪くなった時には遠慮せずに脳外科を受診して下さい。
5.脳ドックとは?
厚生労働省の人口動態調査では脳血管障害は死因の第3位を占めています。死亡率が低下したのは医療環境が整ったためで、発症率は高齢化に伴い増加しています。たとえ死に至らなくても、一度発症してしまえば麻痺や言語障害などの後遺症が残ることが多く、生活の質(Quality of Life)が大幅に低下してしまいます。
脳ドックは無症候あるいは未発症の脳および脳血管疾患あるいはその危険因子を発見し,それらの発症あるいは進行を未然に治療することで防止することを目的としています。
昭和会病院の脳ドックは1.5テスラと言う高い磁場強度を持つ高精度のMRIを使用して脳断層撮影、頚部から脳にかけての血管撮影を行い、脳の状態・血管の動脈硬化の程度・脳動脈瘤の有無などを検査します。また、生活習慣病発見のための血液検査や血管年齢の検査・高齢化社会で増えている認知症の早期発見のために神経心理機能テストなども行っています。
脳ドックの詳細につきましては当病院 「健診事業部」脳ドック をご覧ください。
6.VSRAD(早期アルツハイマー型認知症診断支援システム)
VSRADは、前駆期を含む早期アルツハイマー型認知症に見られる海馬傍回(かいばぼうかい)の萎縮の程度を読み取るためのMRI画像処理・統計解析ソフトです。前駆者を含む早期アルツハイマー型認知症(痴呆症)」において健常高齢者との鑑別では、80%以上の正診率となることが確認されています。
※VSRADは埼玉医科大学病院核医学診療科松田博史教授の総監修の下、大日本印刷株式会社ならびにエーザイ株式会社が共同開発した、早期アルツハイマー病診断支援システムです。 ※アルツハイマー型認知症の診断は、臨床情報に基づき判断されるものであり、VSRADはあくまでも補助検査となります。したがってこの検査結果のみでアルツハイマー型認知症と診断することは出来ません。
患者さんの臨床症状、長谷川式簡易脳機能検査およびVSRADの結果から、アルツハイマー病・アルツハイマー型認知症の診断を行います。
当院の脳ドックでは、通常のMRI・MRA検査とともに長谷川式脳機能検査・VSRADを行っています。
7.認知症?物忘れ?
1.『認知症』の定義
「脳や身体の疾患を原因として、記憶・判断力などの障害がおこり、普通の社会生活がおくれなくなった状態」で、加齢に伴う『物忘れ』とは区別しなければなりません。
2.『認知症』と『もの忘れ』の違い
老化によるもの忘れ | 認知症のもの忘れ |
---|---|
体験の一部分を忘れる | 体験の全体を忘れる |
記憶障害のみがみられる (人の名前を思い出せない、度忘れが目立つ) | 記憶障害に加えて判断の障害や実行機能障害がある (料理・家事などの段取りがわからなくなるなど) |
もの忘れを自覚している | もの忘れの自覚に乏しい |
探し物も努力して見つけようとする | 探し物も誰かが盗ったということがある |
見当識障害はみられない | 見当識障害がみられる (時間や日付、場所などがわからなくなる) |
作話はみられない | しばしば作話がみられる (場合わせや話のつじつまを合わせる) |
日常生活に支障はない | 日常生活に支障をきたす |
きわめて徐々にしか進行しない | 進行性である |
3.『認知症』の分類
『アルツハイマー型認知症』と『脳血管型認知症』に大別されますが、そのほかにも甲状腺機能低下症などの内分泌疾患や慢性硬膜下血腫、水頭症などの脳の病気でも認知症に似た症状を現すことがあります。
近年『アルツハイマー型老年期認知症』が増えていますが、若年性のものに比べると症状の進行が緩やかです。
4.『認知症』の診断
- 知能テスト
長谷川式簡易脳機能検査などの簡単な検査で認知機能の把握を行います。 - MRI検査
脳梗塞・慢性硬膜下血腫・水頭症などの認知症類似の症状を呈する疾病の有無を確認するとともに、認知機能に関係する海馬などの萎縮の有無を検査します(VSRAD)
5.『認知症』の治療
- 薬物治療
症状の進行を遅らせる目的のクスリ(アリセプトなど) 、意欲を改善する目的のクスリ(シンメトレル・抗うつ剤など)を投与します。周辺症状(不隠・妄想・不眠など)を抑えるクスリも適宜使用します。 - 生活療法
家庭内での役割分担などをさせ、出来るだけ社会的生活を行うべきです。通所リハビリなどの利用も効果的です。「家に閉じこもらない」ことが重要です。
8.肩こりを治しましょう!
一次性頭痛(器質的異常がない頭痛)にはいろいろな種類がありますが、多くはこの2種類です。
1.片頭痛
視覚異常などの前兆を伴い(前兆のないことも多い)、眼の奥から痛みがはじまり、側頭部に拡がる吐き気や嘔吐を伴う激しい頭痛。国際頭痛分類では各種の亜系があります。若年の女性に多く、妊娠を契機に軽減することもあります。
原因ははっきりとは解明されていないために予防薬はありません。通常の鎮痛剤はほとんどの場合無効で、片頭痛薬を早期に服用するしかないのが現状です。
2.緊張型頭痛
頭蓋骨の周りについている筋肉の緊張によって起こる頭痛です。締め付けられるような痛みであったり、ズキズキするような痛みであったり、軽い場合には頭が重い感じだけのこともあります。フワフワするような浮遊感と表現されるめまいを伴うことも少なくありません。
日本人は肩こりのひとが多いのか、若い時は典型的な片頭痛だったひとも、年齢とともに緊張型頭痛が主体になってくることも多いようです。生涯有病率は30~78%と最も高頻度にみられる頭痛です。
緊張型頭痛で共通するのは肩こりが強いことです。小学生でも緊張型頭痛の患者さんはいるんですよ!
姿勢が悪い、視力矯正が上手く行っていない(老眼を放置している)、仕事でPCを終日使っているなどが原因になっていくことが多いようです。
薬物治療としては筋弛緩薬の投与などを行いますが、一番大切なのは原因を取り除くこと。普段から姿勢に注意したり、視力の矯正をきちんと行うなどです。
それでもストレスに満ちた毎日を過ごしていると肩は凝るんですよね!
歳とともに疲れも取れにくくなってきます。溜まった疲れを翌日に持ち越す量を少しでも減らすように、1日の整理体操として寝る前に上半身のストレッチをすることが有効です。NHKのテレビ体操も上半身のストレッチが多いのでお勧めです。腕ふり体操も簡単で効果的です。
肩こりを軽くすることで、悩まされていた頭重感・頭痛・フラツキも軽くなるかもしれませんよ!
9.熱中症対策を充分に!
1.熱中症とは
- 高音環境下で、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、体内の調節機能が破綻するなどして発症する障害の総称です。
- 死に至る可能性のある病態です。
- 予防法を知っていれば防ぐことが出来ます。
- 応急処置を知っていれば救命できます。
2.熱中症の症状と重症度分類、対処法
分類 | 症状 | 対処法 |
---|---|---|
Ⅰ度 | めまい・失神、筋肉痛・筋肉の硬直、多量の発汗 | 日陰で休む、水分補給 |
Ⅱ度 | 頭痛、気分不快、吐き気・嘔吐、倦怠感・虚脱感 | 身体を冷やして、水分・塩分の補給。 出来ないようなら病院で輸液 |
Ⅲ度 | 意識障害、手足の痙攣・運動障害、高体温 | 救急車で病院へ |
3.どのくらいの水分が必要なの? 何を飲めば良いの?
成人の水分必要量は1日あたり30ml x 体重 で簡易的に計算できます。たとえば、体重60kgの人なら 30ml x 60 = 1800ml の水分が必要です。
食事で摂取できる水分量は約1000mlですから、少なくとも800mlの水分を経口で補う必要があります。気温・体温が上がったり、運動をすると発汗で失われる水分が増えますから、その分も摂取しないといけません。
汗と同時に塩分も失われます…汗ってしょっぱいでしょう?! 減塩は生活習慣病予防に必要ですが、身体から逃げていってしまった塩分は補充しないといけないのです。ですから、水を飲んでいるだけでは熱中症予防にはならないということを忘れないでください。
じゃあ何を飲めないい? 経口補水液(OS-1など)が一番ですが、塩分を補うためには梅干し茶などでもいいと思います。
高齢になると喉の渇きを感じにくくなります。そのため「のどが渇いた」と感じた時にはすでに脱水が進行していることが少なくありません。そうならないためには少量ずつ頻回に飲むことが大切です。
節電しなくてはいけないからエアコンは使わない! 大変結構な話ですが、室温が28℃を超えないように暑い日はエアコンを使うべきです。夏のつぎに熱中症が多いのは真冬だということもお忘れなく。暖房ヌクヌクに出来ますからね(笑)
医師紹介
鎌田 健作(かまだ けんさく)
外来・病棟 担当
長崎大学 平成7年卒業
脳神経外科一般 担当
・日本脳神経外科学会専門医
・日本脳卒中学会専門医
・日本がん治療認定医
・日本神経内視鏡学会技術認定医
生まれてから現在まで主には長崎市で、ずっと長崎県内で生活し、その変化を見てきました。これからも長崎はさらに変わっていくと思われますが、その活動の根底にあるのは皆様の健康です。皆様の脳の健康に貢献できますよう努力して参ります。
①専門科目(得意分野など)
脳神経外科一般 特に脳腫瘍
②好きな言葉
まん丸丸く 丸くまん丸
③休日の過ごし方
そのときにやりたいことをやる。
④患者さんへメッセージ
脳の病気は一度起こすと重い症状をきたし、後遺症として残ることがあります。このような病気の中には予防が可能なものがあります。また脳の機能は複雑なため、ご心配の症状が脳と関係しているかも分からないこともあるかと思います。気になることがあればお気軽にご相談ください。